しあとりかる-Theatrical-’s blog

観たこと聴いたことに愛あるツッコミを!!

石巻日日新聞社 「6枚の壁新聞 石巻日日新聞・東日本大震災後7日間の記録」

石巻への日帰り出張から帰ってきた日にAmazonから届いた本。翌日に一気に読了。
あの壁新聞ができる過程を記録したものということで,情熱大陸を見た後すぐに注文した本。

6枚の壁新聞

本書の冒頭に6枚の号外のカラー写真が並ぶ。
5枚目の3月16日の新聞記事の一部。

食料の販売はヨーカ堂あけぼの店,ヨークベニマル蛇田店,ロックタウン矢本などが一部店頭販売を行っている。
道路は南浜町がガレキで通行できないほか,貞山,南中里,開北がまだ冠水している。ただし,三角茶屋周辺や市役所周辺など冠水がひどかった地域も徐々に下がってきており,通行可能な幹線道路が増えている。

ライフラインの一つとして限られた紙面でこの新聞が伝えたこと。

2枚の地図

近江社長の序文に続いて,津波被害エリアを説明した地図が2枚。
1枚は石巻東松島,女川という販売エリア全体の地図。
もう1枚は石巻の沿岸部の地図。


国土地理院の10万分1浸水範囲概況図(石巻市東松島市
http://www.gsi.go.jp/common/000059847.pdf
を3月に見たときのことを思い出した。石巻の中心部はほぼ全域が浸水。
中心部唯一の高台である日和山周辺が陸の孤島となっていた。
石巻に向けて救援物資を車で運ぼうとしたが,途中で自衛隊に止められやむなく引き返してきたという話を地震発生の翌々日に耳にした。その話だけからはどういう被害なのかわからず,後日やっとこの概況図で理解した。


この本の随所に水が引かないためまだ寒い3月なのに,水の中に入り,あちこちを行き来して情報収集をする話が出てくる。

社長と6人の記者が語る7日間

まずは,社長自ら壁新聞を発行するようになった経緯,壁新聞がA4サイズのカラー印刷の新聞へと代わって行くまでの毎日の記事づくりの様子を語って行く。
スペースに限りがあるので,記者が持ってくる大量の情報をどのように取捨選択するかが悩みどころだったようで。「被災者が本当に欲しかった情報を正確に伝える。」,「伝える使命」というフレーズがあちこちに出てくる。


次に,地震直後からあちこちの現場に散った6人の記者がそれぞれの7日間を振り返る。
予想していたよりもはるかに詳細な業務日誌という感じ。少し石巻の地理がわかる私にとっては,あそこの急な坂を上り下りしていたんだ,とか,市役所があの高さまで浸水していたとは・・・と鮮明に情景が頭に浮かぶ。
報道機関の一員でありながら,同時に被災地の住民の一人という立場に立たされた記者たちの,7日間の様子が真に迫って伝わってくる。大した物も食べられず,ゆっくり寝られるような場所もなく,家族との連絡もままならないなかで,どのように壁新聞は発行されたのか。それぞれの視点から語られる。
会社で壁新聞を発行すると決めたことさえ,自身が津波に流されて会社と音信不通となったために知らなかった記者もおり,当時の混乱ぶりが伝わってくる。
避難所に行ったら,他紙はあるのに,うちの新聞が置いてなかったとか,震災当日一緒に市役所に寝泊まり組になった他紙の記者から今日の発行は無理と聞き,安心するもこのまま休刊になった場合,読者離れが大いに不安になるといった話には,記者にとって新聞が発行できない事態ということはどういうことなのか,ということも伝わってくる。

あとがきについて

「伝える使命」とは何かについて社長自ら自問自答し続けている姿勢が見られるあとがき。
全国紙と地域紙の使命の違いを明確に示していて納得。
ワシントン・ポストに取り上げられ,ニュージアムに壁新聞が展示されて,「伝える使命」を捨てなかったことを評価してもらえたのは嬉しい。「ただ,」と続く。
地震や大津波の被害を想定して,高台に社屋を移転させ,自家発電機を備え,震災後もコピー機で印刷して発行し続けた,同じ地域紙である岩手県東海新報社と比べると,災害に対する準備が不十分であり,経営者としては複雑な心境だと率直に反省の弁を述べているところが印象に残って。
必ずしも,当事者にとっては,壁新聞発行できてよかったね,というだけの話ではないわけで。


もともと経営基盤がそれほど強くない地域紙だけに,購読者数の減少により新聞社自体が存続していけるのか,という重い現実があって。今後の新聞社としての歩みが気になる。
そんな石巻日日新聞を支えるものとして,あるサイトで紹介されていたのが,WEB購読。
https://newsmediastand.com/nms/N0120.do?command=enter&mediaId=ishinomakihibi
アナログな方法で「伝える使命」を果たした新聞社をデジタルな方法で支援していく,というのもありかと。