今日はえらく漢字が多いエントリーだぁ・・・
- 作者: 永井路子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1990/03/10
- メディア: 文庫
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片道1時間の通勤電車のなかで本を開いても,途中で眠ってしまうのですが,この本を読んでいるときは眠くならない。1時間があっという間に過ぎてしまう。そのぐらい夢中になって読んでましたねぇ。
それでも,読み上げるのに足掛け5日もかかる文庫本で588ページの長編の歴史小説。
ってことでレビューも長くなってしまったわぁ。
北条政子のイメージ
「北条政子」の名をきいてどんなイメージを浮かべるかしら?
- 「いい国(=1192年)つくろう鎌倉幕府」の初代将軍源頼朝の正室。
- 鎌倉幕府初期の最大のピンチ,後鳥羽上皇と幕府が対立した承久の乱のとき,どちらにつくか迷っていた御家人たちに故頼朝の生前のご恩に報いるためには,奉公を!という大演説をし,幕府側の勝利に貢献した尼将軍。
- 政子の実家の北条氏は,頼朝と政子の実子である二代将軍・頼家,三代将軍・実朝がそれぞれ悲劇の死を遂げたあと,幕府の実権を握り,鎌倉幕府が滅亡するまで代々執権という最高実力者の地位にいたなぁ(次々と頼朝の子が悲劇の死を遂げたその黒幕として北条氏や政子がいたのか?)。
なんてことで,権謀術数に長けた女傑?いや悪女か?というイメージになってしまうかも。
永井路子の「北条政子」像
そんなイメージに対して,「いやいや,『彼女の真骨頂は庶民の女らしいはげしい愛憎の感情を歴史の中に残した』ことなのよ。」(こちら→ より)というのが永井さんの見方。
政子は嫉妬から頼朝の愛妾・亀御前宅を家来に命じて打ち壊わさせてたりするし*1。
「承久の乱の大演説?あ,あれは,後ろに名プロデューサー・北条義時(彼女の弟)がついてるから。彼女はただのロボットよ。」なんだそうで。
作品の魅力は?
「女性作家が書くから,女主人公の気持ちがよく書けている。」なんて言われがちかもしれない。
でも,この本の面白さはそこじゃなくて。
平家を滅亡させただけではなく,将軍を頂点とした武家中心の社会を作るために,情に流されず,ときには,必要とあらば身内や昔からの家臣を殺すこともした頼朝とはどんな人物だったのか,その彼の死後に起きた有力御家人による主導権争いを読み解くときのポイントとは?
「吾妻鏡」*2を愛読書とし,そこにある権力者に都合よく虚実織り交ぜられた記述の意味を丹念に追っていった永井さんなりの鎌倉幕府成立史についての「目からうろこ」な歴史解釈がふんだんに盛り込まれている。
一方で,感情の起伏がはげしい北条政子が非情冷徹な政治の世界とどう関わり,どう感じ,どう変わっていったのか,自分の感情の激しさが引き起こすもろもろに苦悩する姿が見える。
女性の心理を丹念に描くだけではなく,歴史ミステリーの要素もあるから,永井さんの「謎解き」にワクワクしてしまったりして。
特に,面白い「謎解き」は,頼朝と政子の実子である三代将軍・実朝を殺した,公暁*3の黒幕は誰か?というところ。
黒幕=北条氏という従来の通説を否定して,歴史学者も認める解釈をしているんですよね。
その解釈は面白いなぁ。
終わりに
読み終わってつくづく,北条政子という人はものすごい強い運命の力に振り回された人なんだなぁ〜と思いまして。
長男・頼家は酒色におぼれ,横暴なふるまいから将軍の座から下ろされ,最後は伊豆に流されるも反乱を起こし殺されている。
その跡を継いだニ男・実朝は優等生なのに,孫・公暁に殺される。
長女・大姫は幼い頃とても仲がよかった許婚・木曽義高(父は木曽義仲でその実は人質。許婚は名目のようなもの。)が,義仲を討った父頼朝に殺されたショックで生きる屍のようになり,両親を深く恨みつつ最後は入内直前で病死。
父・北条時政は,後妻・牧の方を巡って,他の御家人だけでなく実子・義時たちとも,対立し,最後は伊豆に引退させられる。
そして,有力御家人同士が血で血を洗う,内部抗争を繰り広げるなか,実家の北条氏が生き残り幕府の実権を握ることに。
はぁ〜,なんて,激しい人生なんだろ。
私だったら,発狂してしまいそう。
最後は,政子が,孫の公暁が三浦義村に実朝の暗殺者として討ち取られたことを知った場面で終わっている。
この激しい運命を受け入れた政子の姿がその後どうなったのか,気になりますねぇ。
解説によれば,永井さんはこの作品や直木賞受賞作「炎環 (文春文庫)」などを代表に,鎌倉時代を題材とした作品を多数発表している。それらを原作にしたのが大河ドラマ「草燃える」(昭和54年)。
「炎環」も読んでみたいし,「NHK大河ドラマ総集編 草燃える [DVD]」も見てみたいなぁ。