しあとりかる-Theatrical-’s blog

観たこと聴いたことに愛あるツッコミを!!

宮部みゆき「理由」

理由 (新潮文庫)

理由 (新潮文庫)

Amazonでの紹介。

内容(「BOOK」データベースより)
事件はなぜ起こったか。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか―。東京荒川区超高層マンションで凄惨な殺人事件が起きた。室内には中年男女と老女の惨殺体。そして、ベランダから転落した若い男。ところが、四人の死者は、そこに住んでいるはずの家族ではなかった…。ドキュメンタリー的手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。

感想を箇条書きにすると・・・

  • 説明書きの部分が多く,文章がくどい。わざとスピード感を落とすための手法のようにも感じるが,読んでいるとじれったくなる。伏線を張ってますよ的な文章も親切すぎて・・・いらないなぁと思ってしまった。
  • バブルの崩壊→不良債権の増大→金融機関等による早急な債権回収が課題に→法的債権回収の手段としての競売事件の増加→それにつけこんで一儲けたくらむ競売妨害という社会の状況をモチーフにするというアイデアはいいんですが・・・
  • Amazonのある感想には「法律書よりも細かく「占有屋」による「競売妨害」の実態を描いている。」とありますが,この小説と全く同じ手口を使っている「占有屋」がいたら,プロではありません。買受人が決まった段階で,競売開始決定前からの短期賃貸借契約を仮装しても遅いですから。小説ではこのケースで引渡命令が出されるかどうか微妙うんぬんなこと書いてありますが,差押直後の執行官の現況調査のときに,賃借人がいないことが確認されているでしょうから,引渡命令が出される可能性は極めて高いケースかと。
  • そうは言っても,競売でマイホーム購入を考えている方には「安いのにはそれなり理由がある」ということで,この本の一読をお勧めしたいかと。
  • ミステリーではなく,日本のさまざまな家族の形を描くという,社会小説というジャンルになるのでは?ミステリーファンからすると物足りないかも。でも,作者自身が謎解きに力を入れているわけではないかと。
  • それぞれの人物からインタビューしてその人物とその家族の像を描いていくという手法は面白い。インタビューを受ける人の立場が違えば,ある人物に対する見え方や評価が違う。それを際立たせることで立体的に人物像を描いている。そういう手法を使ったことで,長尺になってしまったのだけれども。
  • 最後の犯人の描き方だけ,ちょっと物足りないけど,あのぐらいでいいのかもしれない。