しあとりかる-Theatrical-’s blog

観たこと聴いたことに愛あるツッコミを!!

平成22年度(社)全国公立文化施設協会主催 東コース 松竹大歌舞伎(夜の部)@東京エレクトロンホール宮城

久々に歌舞伎を見ました。本当は昼の部の「勧進帳」を見たかったのですが,それはまたの機会の楽しみに。
どれも夏にふさわしい,キリっとして爽やかな演目でした。

演目

一、雨の五郎 長唄囃子連中
二、仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場 一 幕
三、近江のお兼 長唄囃子連中
(途中の休憩も併せて2時間15分)

雨の五郎 長唄囃子連中

曽我五郎:中村 松江

春雨の夜、蛇の目を傘をさし,大磯の遊女の化粧坂の少将のもとへ向う曽我五郎。
父の仇討ちを胸に秘めながらも、廓通いをする五郎の色気と艶やかさ、それと同時に荒事の豪快さや勇壮な立ち廻りをみせる作品。曽我物の中でも人気の舞踊とのこと。

「粋」な姿ってこういうものなのね。
蛇の目の傘。黒地に蝶の模様で赤の縁取りの衣装、紫縮緬(ちりめん)の頬かむり、素足に塗り下駄。
鮮やかな衣装の色の取り合わせが素敵。
踊りが進むにつれ衣装の着方が変わって行き(片肌脱ぎになったり,もろ肌脱ぎになったり),立ち回りがあったりと華やか。
ジメジメした梅雨時に,春雨の下での粋な踊りを見て,爽やかな気分に。

仮名手本忠臣蔵祇園一力茶屋の場 一幕

大星由良之助:松本 幸四郎
遊女お軽:中村 魁春
寺岡平右衛門:中村 梅玉


有名な忠臣蔵の一幕。
幕府執事の高師直吉良上野介がモデル)が伯州大名の塩冶判官(赤穂藩主の浅野長矩がモデル)をいじめ抜き、耐えかねた判官は師直を斬りつける。判官は事件の責任をとり切腹させられ、お家断絶。
なのに,家老の大星由良之助(大石内蔵助がモデル)は仇討ちなんてさらさら考えてませんとばかりに京の祇園で放蕩三昧の日々。
そんなおり,亡き主君の奥方から由良之助に密書が届く。
祇園の茶屋の釣灯篭の下で、由良之助が密書を読むところから話が展開していく今回の演目。


二階の部屋では遊女のお軽が由良之助が恋文を読んでいるものだと勘違いして,興味本位で手鏡を使って密書を読んでしまう(← そんなことして読めるのか?というツッコミはあるけど・・・)。
一方、高師直に通じている九太夫が床下に忍び込んで,上から垂れ下ってくる密書を盗み読む。
(← 終わりまでは読めないのでは?というツッコミもあるが・・・(苦笑))
二人に読まれてしまったことに気付いた由良之助。
二人をどうにかしなければ,仇討ちの計画がもれてしまう。
由良助は秘密を知ったお軽を不憫ながらも討とうと、わざと身請けすると告げる。
身請した後は,好きなようにしてよいと言われ,夫・勘平のもとに帰れると喜ぶお軽。
そこに兄の平右衛門が現れる。
お軽から聞かれて父・与市兵衛と夫・勘平は「達者だ」と答える平右衛門。
だが,与市兵衛,そして,お軽が再会を願う勘平は既にこの世の人ではなくなっており・・・。
そのことを知らないお軽を不憫に思う平右衛門。
そんな兄の心を知らず,嬉しそうに由良之助に身請けされる話をするお軽。
その話を聞き,はっ,と由良之助の真意を察する平右衛門。
実はお軽と再会する前に,由良之助から仇討ちなぞ馬鹿げたことだと言い放たれたため,呆れて由良之助の元を去ったという出来事があったわけで。
妹を殺して同志に入れてもらおうと、悲壮な覚悟でお軽に斬りつける。足軽という身分の低い平右衛門が主君の仇討ちに加わるためには,そうするしかないという悲しさ。
急に刀を自らに向ける兄の行動に驚いたお軽に平右衛門は事情を話し、父も勘平もこの世にいないことを男泣きに告げる。
すべての事情を知り,兄のためにとお軽は自害しようとする。
そこに由良之助が現れ、敵と味方を欺くための放蕩だったと本心を語る。
そして,お軽の刀に手を添えて、「こやつの息子が殺したようなものだ。父と夫の仇を討て」と床下の九太夫を刺し、平右衛門に同志に加わることを許すのであった。
(← 舞台を見たときは訳がわからなかったのですが,六段目で九太夫の息子が与市兵衛と勘平の死の原因を作ったというエピソードが出てくるわけで。)
感激する平右衛門に
「鴨川で水雑炊をくらわせやい」
(←解説によれば,祇園らしい,内容は残酷だけど優雅が表現とのこと)
と九太夫の処置を頼む。


ストーリー展開が面白いなぁ・・・と。
見どころは平右衛門のジレンマ。「をいをい,そういう理由で妹を殺すなんてありなのかぁ〜?」とお客さんが心を痛めているところへ,そこへ颯爽と登場する由良之助。
高麗屋*1」とタイミングよく客席から声が掛かかり,拍手喝さい。クライマックスへ。
ハラハラドキドキさせて,反則技に近い(笑)展開で一件落着。
これが歌舞伎の魅力なんだよなぁ・・・うんうん。

近江のお兼 長唄囃子連中

近江のお兼:市川 高麗蔵


舞台は琵琶湖の東岸、野洲川のほとり。
近江晒(さら)しを手にして堅田の湖畔に洗濯にやって来たお兼ちゃん(10代後半)。
可愛い女の子なのに,暴れ馬を鎮めたり,漁師たちを相撲で打ち負かしたり*2と大変な力持ち。
手にした晒しの長布をひらひらと女子体操の「リボン」のように操ると,漁師たちは一斉にバック転するわなんやらで打ちのめされるんです。
他方で、近江の地名を折り込んだ切ない女心や盆踊唄を踊ったりと田舎娘らしい純朴さを表現する可愛らしい振り付けもあったり。


「近江のお兼」は一人の役者が早替りで踊る「変化舞踊」と呼ばれる舞踊で,近江八景*3をテーマにした八変化舞踊『閏茲姿八景(またここにすがたのはっけい)』の中の一曲だそうです。
鮮やかな緑と紅の衣装と真っ白な晒しの色の組み合わせに,梅雨時期でジメジメとうっとうしい気分を晴らしてくれるような爽やかさを感じまして。
振り付けも見ていて楽しく,この踊りが江戸の時代にも人気があったというのは納得。

*1:松本幸四郎の屋号

*2:すごい設定だけど,近江地方には琵琶湖で水浴びをしていた馬が、何かに驚いて暴れ出し、大の男が大勢で抑えようとしても静まらなかったのに、一人の女性が、高下駄でその馬の手綱を踏み押さえると、馬は動けなくなって静まった、という大力女の伝説があるんだそうで。

*3:「比良の暮雪(ひらのぼせつ)」「矢橋の帰帆(やばせのきはん)」「石山の秋月(いしやまのしゅうげつ)」「瀬田の夕照(せたのゆうしょう)」「三井の晩鐘(みいのばんしょう)」「堅田落雁(かたたのらくがん)」「粟津の晴嵐(あわずのせいらん)」「唐崎の夜雨(からさきのやう)」といった琵琶湖西南岸の景勝地八カ所