しあとりかる-Theatrical-’s blog

観たこと聴いたことに愛あるツッコミを!!

七月大歌舞伎「天守物語」@銀座・歌舞伎座

歌舞伎座正面

東京に行ったついでに,2年振りで歌舞伎を見てきました。


今月は泉鏡花作品4作「夜叉ヶ池」「海神別荘」「山吹」「天守物語」を歌舞伎座で上演。
今回見たのは,そのなかの傑作で,主人公富姫が玉三郎の当たり役と言われているらしい「天守物語」。
今回はいつものとおりの一幕見席(1500円)+立ち見だったので,確かに見づらかったのですが,それでも楽しめました。
見終わった直後よりも,あとからジワジワと見てよかったなぁ・・・と。

配役

天守夫人富姫    坂東玉三郎
姫川図書之助    市川海老蔵
近江之丞桃六    市川猿弥
奥女中薄        上村吉弥
小田原修理      坂東薪車
亀姫          市川春猿   
十文字ヶ原朱の盤坊 市川右近
茅野ヶ原舌長姥   市川門之助


公演のHPはこちら
(チラシの玉三郎さんの美しさがポイント!)

天守物語

舞台は姫路城,別名白鷺城。            実物はこちら→ 最上階は富姫様のお住まい
実は去年姫路城を見に行っているのですが(そのときのエントリーはこちら),どこまでも白く美しいお城なんですよ。
それでいて実戦的な堅固な城でもありまして。
美しさと強さを兼ね備えた魅力あるお城でした。


このお城には戦乱期に自害した城主の娘刑部(おさかべ)姫が怨霊となって出るという伝説があり,それをもとに,泉鏡花天守閣に住む魔界の美しいお姫様と人間界の凛々しい若侍の恋を描いた戯曲「天守物語」

夜叉ヶ池・天守物語 (岩波文庫)

夜叉ヶ池・天守物語 (岩波文庫)

を書いたようです。


泉鏡花って,国語の試験で名前出てたなぁ・・・ぐらいの知識しか知らなかったのですが,今回の美しく妖しい「天守物語」の演目を見て戯曲を読んでみようかな・・・と思ったりして。

みどころ

この演目の魅力は「美しいも妖しい世界」,これに尽きるでしょう。

ストーリー

序盤,富姫のところに仲のよい亀姫が訪れる場面では,並んで座る二人の美しさにうっとり。
が,そこは魔界のお姫様。只者じゃありませんて。
亀姫の,富姫へのとっておきのお土産は,なんと!富姫が住む白鷺城城主播磨守の弟の生首。
しかも,運んでくるときに,血がしたたって生首が血だらけになってしまったから・・・と亀姫お付のばあや・茅野ヶ原舌長姥が,ながぁ〜い舌でなめて綺麗にして差し上げる(ひえぇぇ〜)。
この最高級のお土産と比べると,富姫が亀姫に用意していた先祖代々白鷺城城主に伝わる兜は見劣りがする・・・(←いやいや,兜で十分ですよ。って,他人のもの取っちゃだめでしょ。)。
兜に代わるお土産にと,富姫は,亀姫が気に入った様子を見せた,播磨守の白鷹を招き寄せそれを土産に持たせることに(←またまた他人のものですが・・・)。


次のうっとりは図書之助登場シーン。
鷹匠であったため,白鷹を失ったことで城主の怒りを買い,切腹も命じられたものの,城の者が近づかない天守の様子を見届けたならば命を救ってやろうと言われたために,天守にやってくる,凛々しい若侍・図書之助。
富姫・玉三郎と図書之助・海老蔵のツーショットがほんと絵に描いたような美男美女カップルでため息が出ました。
海老蔵の声が若々しくしかも爽やかで,ドキドキ。


そのあとのストーリーはそっちのけで(をいっ),二人の寄り添う美しい姿に見とれてまして。


富姫に二度と天守には来ないように言われ一度は降りていったものの,帰りの途中で手にしていた雪洞(ぼんぼり)の火を大蝙蝠(こうもり)に消され,天守に戻り富姫に火をもらうときの,ぱっとついた火の光にてらされた二人の姿。なんとも幻想的なシーン。


終盤,理不尽にも謀反の罪に問われ,人間に殺されるくらいなら,二度と天守には来ないという約束を破った罪で富姫に殺される方がよいと,三度天守に登ってくる図書之助。
そんな彼を富姫は天守に置かれている大きな獅子頭の母衣(胴体の部分)にかくまい,自らもその中へ。
天守にやってきた小田原修理率いる追っ手が見たものは,天守が魔所となったゆえんの大きな獅子頭
この獅子頭に打ちかかろうとしたところ,獅子頭が暴れだしため,追っ手は獅子頭の両目を潰し動きを抑えると,母衣の中から両目が見えなくなった図書之助が転がり出てくる。
続いて出てきた富姫は例の播磨守の弟の生首(@魔界最高級お土産)を追っ手に投げつけ,それを城主の播磨守自身と見間違えた追っ手は恐れおののいて退散。
(←ここで最初の「生首」エピソードが効いてくるわけです。)。


が,実は富姫も両目が見えなくなっており,目が見えない同士で手探りで相手を探しあて,抱き合う富姫と図書之助(←図書之助のざんばら髪姿がまた素敵☆)。
一度は追っ手を追い払ったものの,城主の無事がわかれば,再びやってくるだろうと覚悟を極める二人。
そこへ,どこからともなく獅子頭を彫ったという近江之丞桃六という老人がやってきて,獅子の両目を鑿(のみ)であけると,あら不思議。二人の両目が見えるように。
めでたしめでたし。


玉三郎海老蔵

最初に見た歌舞伎が瀬戸内寂聴作「源氏物語」で,当時新之助だった彼の光源氏を見たときも思ったのですが,市川海老蔵という人はほんとこういう美男子役がぴったりとはまりますね。
生まれもった容姿は天からの贈り物。努力しても手に入れられないものですね。ずるいっ!


玉三郎も,ほかの演目よりもずっとこの作品の方が玉三郎の美しさが際立って見えまして。
こういう現実離れした,ストーリーを理屈でなく目で見,耳で聞いた感覚で楽しむ作品にすごくはまっていました。


そんなに観劇はしていないのですが,どうしても今まではストーリーの筋を追うことに集中してしまいがちだったんですよね。で,ストーリーの展開に納得できないと楽しめなかったりもして。
でも,今回,舞台からそのお芝居の世界をそのまま理屈でなく感じ取るということができたような気がしまして。
とても新鮮な感覚でした。


玉三郎海老蔵で,天野喜孝美術(←衣装が天野さんの絵そのままなのよね)の昼の部「海神別荘」も,筋書(パンフレット)の写真を見てすごく見たくなったのですが・・・無理。残念。