この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば
今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」も見てるし、大好きな永井路子氏の作品なので手に取ってみた。
歴史資料を読み込んで、資料に書かれている事実だけでなく、その資料にあえて書かないこと、むしろ事実とは違った書かれ方がされていることを切り分けて、まるで謎解きをするかのようにその時代のリアルを描こうとするところに永井作品の魅力がある。
「この世をば」は、(作品が発表された当時からすれば)1000年近くの平安時代の代々の天皇と実権を握る藤原家との駆け引きや貴族社会内部での権力闘争の有り様を描きつつ、主人公の藤原道長の胸の内も語られていく。
よく言及されている資料として、藤原道長と同時代を生きた藤原実資が遺した「小右記」という後世の人間にとっては興味深い🧐日記がある。
実資は、世が世なら自身が最高権力者になっててもおかしくない家柄の出身。
有職故実に精通した当代一流の学識人で、最高権力者である道長にもおもねることなく筋を通し、一目置かれる存在だったという。その彼が書き残した「小右記」には、当時の出来事が淡々と記録されているだけでなく、その当時の出来事への率直な感想だったり、他人に対する批評も書かれているそう。
60年にも渡る膨大な宮廷内の儀式などの記録と、ちょいちょい書かれる私的な「つぶやき」が一体となっているおかげで、道長に近い立場で書かれた「大鏡」があえて書かなかったことや、当時の貴族の生の感情が手にとるようにわかって非常に貴重な資料らしい。
ちなみに実資は「光る君へ」では権力者も無視できないうるさ型の実力者という位置付けで、ロバートの秋山竜次氏が演じているが、その演技が絶妙。筋が通っていないとマジメに怒れば怒るほどユーモラスに見える😁魅力的なキャラクターとして描かれている。
藤原行成の「権記」という日記も時折触れられている。
非常に実務能力に長けた人だったらしく、この人の日記も貴重な記録だそうで。
というような歴史的資料の読み方や読む面白さも伝えてくれる永井作品。
また、ここで出てくるエピソードの場面を想像してから、大河ドラマで実際にどのように映像化されるのかを見るのが楽しい。